小説でも音楽でも、ひとりの作家が傑作として世に残せる作品は、本当にまれです。それは奇跡的な出来事といってもいいでしょう。逆に、ひとつでも傑作をものすることができれば、それは作家にとってまさに冥利に尽きるいったところなのでしょう。
さて、「宮部みゆきの最高傑作」と謳われたこの作品、どうでしょうか。解説では「重厚な小説」で「至福の時を」過ごせることになっています。
文庫で本文619ページの超大作だ、どうだ!
さっぱりおもしろくありません。
長いだけ。きっと作者は、やっとワープロの使い方を覚えたのでしょう。
登場人物にはなんにも魅力がないし、事件のなぞも中途半端、ただの冗長な小説です。一応テーマがあるとしたら、競売物件がらみの事件から、世の中のひずみを見る、ということにもなるのでしょうが、それだったら篠田節子の「女たちのジハード」の短編(30ページくらい)のほうが、よっぽどおもしろい。これで直木賞とかもらえるんですから、いいです。いい小説より、売れる小説のほうが、やはり評価が高い。出版社のほうも、「宮部みゆき」というブランドに「最高傑作」とつければ、簡単に売上も伸びる、さらに賞なんか与えたら、もうウハウハやあ!ということなのでしょう。商業的には当たり前のことなのですが、なんか大事なことを忘れている気がします。おまえら、売ってるもんなんやねん。
宮部みゆきといえば、最高傑作は「火車」ですが、その前にも、「龍は眠る」「魔術はささやく」「レベル7」といった佳作があります。どれも、作品に対して一生懸命さが見えるものばかりで、手に汗にぎるとでもいうのか、非常に大事に、それこそ精魂込めてつくられた作品だったと思うのです。
作家として成功して、いまや赤川次郎くらい収入もあるそうなので、やってて苦しいだけの小説なんて、書いている暇はないのでしょうが、それにしても惜しいものです。