神戸ではたらく中年エンジニアのブログ

震災後に神戸で働きだしたジジイです。DBシステム、プログラムに機械装置、なんでも作ります。

「漂流」吉村昭

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「圧倒的」という表現が、ぴったりの小説です。ドキュメンタリーと銘打ってありますが、江戸時代・天命年間の記録を題材にとったもので、作者の特徴でもある登場人物の心理状態の描写がとても秀逸です。
時化に遭い、時間を追って崩壊していく船。結局は難破し漂流し、あほう鳥の楽園「鳥島」にたどり着きます。水も涌かない火山島。草木も、火もなく、一緒にいた仲間もやがて死んでいく。ひとりきりになった主人公は、念仏を友として、一生この島で生きる覚悟をし、ひとつひとつの生活の手段を確立していきます。
生きる厳しさ、その過酷さを真っ向から受け止めるとき、人はどのように振舞うものなのでしょう。「愚痴を言いたければ、言うがいい。しかし、いくら愚痴を言ってみても、なんの益もないことがわかります。所詮叶わぬ身であるとさとれば、そこから生きる力のようなものが湧いてくるものです」
ついに主人公は生還するのですが、僕がこの本で一番心に残ったのは、当時の鎖国政策が原因で、多くの漂流民を出していたという現実です。船の構造や、生還した漂流民に対する扱いなどですね。ひとりひとりの個人が、国家という大きな力にどうしようもなく翻弄されてしまう。そういった「漂流」を、作者は大きな視点で書こうとしたのだと思うのです。