前に塾の講師をやっていたとき、中学3年生の子が、どうしても因数分解がわからないということで、とことん付き合ったことがありました。その子は成績も優秀で、英語はもちろん、国語も理科社会も完璧。数学のテストも毎回いい点をとっていました。でも、因数分解だけできなかったのです。ひとつひとつ、わからない原因を掘り下げていきました。方程式を解くのに、ひっくりかえして掛けたり、割ったり、全然オーケーです。でも因数分解だけできない。調べていくうちに、この子は「分数」がわかっていなかったことが、わかりました。というより、分数の問題は解けるのです。分数という考え方を理解していなかったのです。
この問題に行き当たったとき、僕なりに「教育の矛盾」てやつを、ひしひしと感じました。この子は、本当に成績がいいのです。なぜなら、頭がいいので、「問題は全部おぼえて解ける」からです。数字の本質を知らずに、これからも問題を解いていくのでしょう。で、高校生になれば数学は向いてないということで文系のクラスにいって、受験問題は暗記でパスして、大学に行くのでしょう。ふと見渡すと、大学受験の生徒たちも、そんなんばっかりでした。
まあ、それはそれとして、この本は人間が数字を理解し使うという関係を、多方面から深く考察しています。交通事故にあった人の事例から、脳の部位と、計算や数の大小との関係。成長にともなって、数を把握していくプロセスについてなど。
指を折って数を数えるという事例で、パプアニューギニアの種族は、指だけでなく、体の各部分で数字を記録するというのもおもしろかったです。左手小指から、1、2、3となって、足の指から11、12、左耳が21、ちんちんが33です。
読み通すにはちょっと学術的で難しげな本ですが、お子様がいる人は一度読んでおいてもよいのではないでしょうか。あと、次の問題がわからなかった人。
「スミス夫妻には子供が二人いる。(双子ではなくて)ひとりは男の子だとわかっている。ではもうひとりが女の子である確率は?」
「スミス夫妻には子供が二人いる。上の子は男の子。では下の子が女の子である確率は?」