「だからベートーヴェンはいやだ。瞬間瞬間の音も、和声も驚くほど簡明だ。アクロバティックな技法はない。それゆえ、音の一つ一つをダイナミックに歌わせる弾く側の気力と、構成力が要求される。
最初のスフォルツァンドは鋭いアタック、そして次のスフォルツァンドがくる。これは、唐突な愛の表現。」
相変わらずたまらない音楽描写です。わけがわからないけど、なんとなく引き込まれていきます。この系譜は後の傑作である「カノン」「ハルモニア」「レクイエム」「賛歌」に連なっていくわけですね。
初期の作品で「変身」という題で最初は発表されたらしいです。他の作品よりもえげつない表現が少ない分、物足りない気もしますが、物語がしっかりできているので、とても読みやすく、一晩で読めます。いいサスペンスのタッチで、読了後の爽快感もまずまず。まあ、この人は死ななくてもよかったんじゃない、てのもありますが。