神戸ではたらく中年エンジニアのブログ

震災後に神戸で働きだしたジジイです。データベースにプログラムや機械装置、なんでも作ります。

「Twelve Y.O.」福井晴敏

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非常に力のある小説です。
街行く適当な若者に声をかける、自衛隊手配師。その仕事をなんの情熱もなく漫然と続ける男。こんなはずじゃない、と自分の生き様を悔やみながらも、なにひとつ変えることのできない、怠惰な日々。そんな男の前に、元上官である東馬が現れる。
めっぽう強い美少女(この辺はとてもアニメチックよね)をしたがえた東馬は、「トゥウェルブ」と名乗り、アメリカ合衆国を脅迫します。要求は「GUSOH(グソー)」と呼ばれる秘密兵器の情報公開。そして、合衆国大統領との会見。日本政府の裏情報機関も巻き込んで、大きな陰謀がだんだんかたちを現してきます。やがて、男も失っていた情熱を取り戻し、大きな敵に立ち向かっていきます。
「東馬――トゥウェルブは、米軍潰しや沖縄の解放を企図しているのではない。在日米軍を叩き出し、日米安保に寄りかかってひとり立ちを拒み続けてきた日本の基盤を揺さぶることで、変革を促そうとしているのだ。」
日本もいい加減に目覚めなくてはいけない。自分の身を自分で守れない民族が、どうやってこの国際社会で認められるというのか。その辺が、作者の一貫したテーマみたいですね。
自衛隊がどうのこうのについては、次回作である「亡国のイージス」にゆずるとして、それぞれの苦難を乗り越えていく登場人物たちが、いい味だしてます。ただ全体に、ちょっとセンチメンタルすぎる気もするのですが、その辺も作品の力強さなのかな。

あと、蛇足ですが、文庫版の解説は大沢在昌。まあ、黙ってればいいものを、江戸川乱歩賞の選考委員だそうで、この作品が選ばれるまでの経緯を、得意げに語っています。俺が掘り出した作家だぜ、みたいな、うるさいうるさい。興ざめになるので、解説は読まないほうがいいでしょう。