神戸の中年エンジニアはジジイになりました

震災後に神戸で働きだしたジジイです。DBシステム、プログラムに機械装置、なんでも作ります。

#小説

「猫鳴り」沼田まほかる

※初出2012/06/15 冗長になっている部分を修正。 「猫鳴り」沼田まほかる なんという、いとおしい小説だろう。小さな命、生きる暗闇、死に向かうことのおだやかさ。約200ページ。三部構成で、それぞれが短編として完結しているが、そこに20年という月日が流れ…

「サイゴンのいちばん長い日」近藤紘一

ベトナム戦争というと、いままでに大して詳しい説明を聞いたこともないし、学校の先生に教わった覚えもありません。ただ、アメリカの戦争映画でその悲惨さと、不条理さだけをつきつけられただけです。どたばた劇が多い中で印象に残っているのは、高校生のと…

「大本営が震えた日」吉村昭

太平洋戦争はいわゆるパールハーバー、日本軍によるハワイ諸島奇襲攻撃で始まるのですが、「奇襲」というからには、敵に悟られずに戦争の準備をしていくという苦労があったわけで、その辺のことを様々な史実から書いています。ちなみに、ちょうどこれを読ん…

「マエストロ」篠田節子

「だからベートーヴェンはいやだ。瞬間瞬間の音も、和声も驚くほど簡明だ。アクロバティックな技法はない。それゆえ、音の一つ一つをダイナミックに歌わせる弾く側の気力と、構成力が要求される。 最初のスフォルツァンドは鋭いアタック、そして次のスフォル…

「最後の相場師」津本陽

原題は「裏に道あり-『相場師』平蔵が行く」1983年の刊行ということですから、ちょうどバブル期ですね。株式とか金融とか、そんなんが流行する周期があるのでしょうか、最近はネット取引も盛んですから、せっかく貯めた小金を手数料でとられる人が多く…

「怪しい来客簿」色川武大

彼岸と此岸(しがん)を行き来する、「怪しい来客」たち。筆者はその間の世界で、彼等の声を聞き、やがてはそこに仲間入りするであろう、自分の姿を見ます。 たいていの人にとって、死というのはやはりこわいものだと思うのですが、その「死」に、いつも近い…

「オルゴール」伊集院静

「伊集院ワールドの傑作ばかりを集めた」短編集だそうですが、ぜんぜんだめ。これはあかんです、駄作。好きな作家のひとりだったのですが、がっかりです。 最初の短編「オルゴール」は非常に好感が持てて、泣いちゃったりしたのですが、そのあとはなんじゃこ…

「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」米原万里

大宅壮一ノンフィクション受賞作!なんと?この作者に、そんな骨太な作品書けるの?そんな疑問から読み始めましたが、やられました、これはいいです。 物語は3部に分かれていて、それぞれ1人づつ、3人の少女が語られています。ギリシャの青い空を夢見るリ…

「心の砕ける音」トマス・H・クック

まずは、解説文を略して引用します。長くなりますが、僕もまったく同じ経緯でクックのファンになっていること。そして、この作品への思いが、まるで自分の意見のようで、少し驚きました。 -- 最初に読んだクックの小説は『熱い街で死んだ少女』で、もう十年…

「慟哭」貫井徳郎

人呼んで「ミステリ界のストーカー」(ほんまかいな)高村薫が、この作品を、 題は『慟哭』 書き振りは《練達》 読み終えてみれば《仰天》 と評しております。 「逃げない」という姿勢で書かれた作品に接したとき、その作品の評価うんぬんということの他に、…

「神は銃弾」ボストン・テラン

たまに、ハードボイルド・ミステリーてやつに、浸りたくなるときがあります。で、本屋さんをざあっと見渡して、いくつか拾ってくるわけです。平積みになっていると、やはり目に付きますし、「ベストミステリー1位!」とか「CWA新人賞授賞」とか帯にある…

「ゴールドラッシュ」柳美里

「ゴールドラッシュ」て聞くと、やっぱり矢沢のえいちゃんだよね。 まあ、そんなことは、おいといて。 例の神戸の少年殺人があってから、犯罪だけでなく、現代の少年たちの抱える問題、不安な世界観、大人たちの無力さ、教育の矛盾が、一気に社会に認知され…

「白夜行」東野圭吾

いままで宮部みゆきの作品にみてきたように、ワープロを使うと、作品はつまらなくなっちゃうのでしょうか。 確かに、万年筆なんかを使って原稿用紙にがりがり書いているのと、ワープロでコピーを駆使して貼り付けていくのとでは、なんとなく作品の執念が違う…

「歳月」司馬遼太郎

幕末、明治維新を経て、明治の新政府が誕生するその時代、多くの才能ある人間が活躍しました。 江藤新平は法律の土台を作った人で、刑法はドイツ、民法はフランスを手本に、日本の法律はできていったわけですね。 「維新」が起こって、旧体制が崩れていく。…

「漂流」吉村昭

「圧倒的」という表現が、ぴったりの小説です。ドキュメンタリーと銘打ってありますが、江戸時代・天命年間の記録を題材にとったもので、作者の特徴でもある登場人物の心理状態の描写がとても秀逸です。 時化に遭い、時間を追って崩壊していく船。結局は難破…

「リプレイ」ケン・グリムウッド

中年男がある日突然死をして、その記憶を持ったまま、25年前に戻ってしまう、というSFです。「もしも人生をやりなおせたら」というのは、SFでは古臭いテーマです。 男は競馬とかメジャーリーグの結果を知っているので、ギャンブルで大儲けします。そのお金…

「青春デンデケデケデケ」芦原すなお

青春小説、というとなんだかいい年こいて読むのもどうかと思いますが、友達、音楽、バイトに恋、高校生の明るく切ない時代。あの輝きはー、もう戻らないのねー(なんの歌や)。 高校時代を書いたちょっといい小説で有名なところでは、村上龍の「69」があり…

「Twelve Y.O.」福井晴敏

非常に力のある小説です。 街行く適当な若者に声をかける、自衛隊の手配師。その仕事をなんの情熱もなく漫然と続ける男。こんなはずじゃない、と自分の生き様を悔やみながらも、なにひとつ変えることのできない、怠惰な日々。そんな男の前に、元上官である東…

「カノン」篠田節子

高村薫は別格として(なんでや)、女流作家でとても好きな人のひとりです。男も女も、作家では関係ないとは思うのですが、この人の辛らつな現実描写は、やはり女の人でなくちゃあ、できないのではー、て思います。とてもしっかりとした文章と、構成力のある…

「理由」宮部みゆき

小説でも音楽でも、ひとりの作家が傑作として世に残せる作品は、本当にまれです。それは奇跡的な出来事といってもいいでしょう。逆に、ひとつでも傑作をものすることができれば、それは作家にとってまさに冥利に尽きるいったところなのでしょう。 さて、「宮…

「しあわせの理由」グレッグ・イーガン

ハードSFの旗手であるグレッグ・イーガンの短編集その2です。 とにかくすごい作家で、発表する作品ほとんどが、なんらかの賞をとる。内容も、非常に科学の最先端できわどいところを取り上げています。 得意とするテーマは、量子力学とアイデンティティ。現…

「胡蝶の夢」司馬遼太郎

読了して、本当に様々な、深い感慨にふけってしまいました。江戸時代末期から、日本の医学の黎明期、漢方しかなかった日本の医学に、オランダさらにドイツという、近代医学を持ち込むのに活躍した人々が主人公です。 幕府のおかかえ医師である松本良順。権力…

「奇跡の人」真保裕一

「ホワイトアウト」に「震源」「奪取」日本屈指のストーリーテラーでしょう。よく東野圭吾とならんで、ベストセラーのところにあるのですが、この2人の作品は、実際読んでまったくハズレがありませんね。 題名はヘレンケラーとかけているのだと思います。事…