まずは、解説文を略して引用します。長くなりますが、僕もまったく同じ経緯でクックのファンになっていること。そして、この作品への思いが、まるで自分の意見のようで、少し驚きました。
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最初に読んだクックの小説は『熱い街で死んだ少女』で、もう十年前になるが、このときの衝撃は今でも鮮明に覚えている。
タフでストイックな白人刑事ベン・ウェルマンの生きざまと彼の不屈の捜査をとおして人種対立の不毛さを描き切った、この作品には、私がミステリにもとめるエッセンスがほぼ完璧なかたちでそなわっていた。
私はたちまちクックの「忠実なファン」になった。が、その直後、肝心の作者が消えてしまったのである。いや、正確には翻訳が(どういうわけか)止まってしまったのだ。当時、クックは一年に一冊ほどのペースで執筆していたから、これらの作品が翻訳されるのを私はひたすらまちつづけた。
悲劇の真相は俗っぽい憎悪や欲望とは無縁のところにある。記憶の迷宮をたどり、最後の真実に到達したとき、私たちがまのあたりにするのは、心に傷を負った人間の深い悲しみだ。
はたして純文学とミステリの間に明確な境目があるのか、私自身よくわからないが、少なくとも純文学サイドでは「守るべき」なにかがあるらしく、エンタテイメント小説との間に高い垣根を構築している。しかし、クックはその垣根をやすやすと飛びこえ、純文学ですら簡単にはなしえない「物語による感動」を読者に与えることに成功した。彼の作品が毎年のミステリ・ベストテンで上位にランクされるのも十分うなずける。
本書『心の砕ける音』は、こうしたクックの良質な部分をすべて継承している。
ラストの展開は予想もつかなかった。私がそうであったように、この結末はきっと読者の心を揺さぶるだろう。
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とある田舎町の兄弟、そしてそこに現れた女性の物語。
謎の多い女性。彼女はどこからきた、何者なのか。そんなことを気にせずに、彼女への愛を貫く情熱的な弟と、他人への不信感のかたまりのような兄。ところどころちりばめられる、終局への予感。兄弟それぞれの愛情、ねたみが交錯しながら、兄による一人称の文章は進んでいきます。このあたりは、クックの他作品にも見られる独特の「暗さ」があります。で、またこのパターンか、と思ったら大間違い。
四部構成の物語、三部を過ぎてから、物語は急速に濃密さを増し、すべての要素が凝縮していきます。すべての謎が解けるその瞬間まで、真実を知るものは誰もいません。
物語の先が読めない心地よさ。ストーリーに裏切られる爽快さ。
どきどきどきどきして、一気に最後まで読んで、眼はうるうるで、本を読むことがこんなにも幸せなんだと感じるのです。ああ、読んでよかった。
で、最後も解説文で引用。
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本書を読み終わったばかりなのに、いまから、次回作がまちどおしい。